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2013年04月13日

西表島の神さまたち

石垣島のおじさんたち(「島のおじさん」)と再会した昨年の旅行。
妹も私も、おじさんたちと会うこと以外は、何も決めていなかった。
明日どこへ行く?
明日はどこに泊まる?
泊まる宿すら決まっていなかった。
おじさんたちと“小パーティー”をしたときに、
「明日は西表でシチがあるよ」と教えてもらい、びっくり。
前から気になっていた祭だが、タイミングが合わず、一度も見たことがない。
「節祭」は約500年前から始まったとされ、国の重要無形文化財に指定された祭でもある。
インドには呼ばれる人と、呼ばれない人がいると聞く。
私たちはようやく、西表に呼んでもらえたのかもしれない。
やっと「オホホ」に会えるんだ!なんて姉妹で喜び合った。
「昼くらいに祖納でアンギャーを見て、その後干立へ行けばオホホが見れるさ」
という、おじさんの曖昧な情報だけを頼りに、西表島へ行ってきた。

もっと調べて行けば良かった、と西表島の上原港に着いてすぐに後悔。
大きな祭をイメージしていたので、港に着けば、何か案内が出ていると思っていた。
何もなかった。
私たちは八重山観光フェリーの往復チケットを購入したのだが、
港からの無料送迎バスは、安栄観光のチケットが乗車券代わりになっていた。
同じ金額を払ってフェリーに乗っているのだし、フェリー会社共同運行にすればいいのに〜。
路線バスも走っているのだけど、フェリーが到着する前に出発しちゃっている。
定刻で着いたのに?うそでしょ〜?
…と、ぶつくさ言っている場合ではなかった。
タクシーも、レンタカーもレンタサイクルも、何もない。歩ける距離でないことはわかる。
この無料送迎バスに乗れないと、祖納のアンギャー行列が見れない!
バスの運転手さんに懇願して、無理やり乗せてもらった。
島人にしては珍しいくらい、猛スピードを出して走る運転手さんだった。
こんなスピード出したらイリオモテヤマネコが轢かれちゃうよ、、、。
バスに乗せてくれたけど、「帰りは乗せないからね」と釘を刺される始末。
なんだかおっかない人だった。

明らかにテンションが下がった顔をした妹と、祖納のバス停から海岸へ歩いて行った。
集落を歩き出しても、祭の雰囲気が伝わってこない。
海岸が近づいて、賑やかな声が聞こえてきたとき、どれだけ安堵したことか!
実は石垣島のおじさんの勘違いで、見たかったアンギャー行列はすでに終わっていたが、
メインの船漕ぎレースが始まったばかりだった。

西表島の神さまたち





浜辺と、向いにある“まるま盆山”(と呼ばれる小さな島)を三往復もする。
「海の彼方から五穀豊穣を運んでくる」二艘の船に向けて、
女性たちが手招き踊りをして声援を送り、“ミルク神”が漕ぎ手を見守っている。
三往復して、先に浜辺へ戻ってきた漕ぎ手が、ミルク神の前まで走ってきて、
肩で呼吸をするかのように息を切らしながら、五穀豊穣が約束されたことを宣言する。

西表島の神さまたち




ここまで見届けてから、こんどは干立集落へと移動して、オホホに会いに行く。
祖納バス停前の売店で、お弁当と飲み物を買い、妹はその場で1本燃料補給をして、
祖納から干立へ、じりじりとした真昼の太陽を浴びながら、のろのろと歩いて行った。
オホホが登場する干立の御嶽に着くと、島人も観光客も皆お弁当を食べて寛いでいた。
カメラを下げた女の子が「これから始まりますよ」と教えてくれ、
まさか終わったんじゃ…という不安は解消。ちょっとお尻が痛い石垣の上に座り、
大きな木に寄りかかって、お弁当のおにぎり、ウインナー、唐揚げを食べた。
「痛ッ!」
えっどうした?妹は私に腕を見せて、
「この木に噛まれた……」と言った。ちょっと血が出ている。
ギザギザとした幹に腕が当たったらしいのだが、
“ハ”の形をした傷口は、確かに“歯型”にも見えた。
しきりに「噛まれた」と言って、嬉しそうな顔をする妹だった。

御嶽の前庭で、祭は始まった。
至近距離で見る女性たちの踊りや、男性たちの棒術の演技は、迫力があった。
さぁ、いよいよ神様たちの登場だ。
御嶽の建物の木戸が開き、ミルク神が姿を見せた。

西表島の神さまたち


お付きのこどもたちに支えられ、ゆっくりと静かな足取りで進むミルク神。
御嶽の木々から光が差し込み、神々しい姿だった。
…神様だからあたり前なんだけど、ここ干立のミルク神は、とくに神様らしいと感じた。
建物から出てきて、前庭を1周だけして、再び建物に入ってしまう。
この短い時間しか、姿を現さない。祖納のミルク神は、1日中人々を見守っているという。
波照間島のミルク神は、公民館の前で仮面を外し、人間の姿でビールを飲んでいた…。
ミルク(弥勒)神もいろいろ、なんである。

神々しさを放つミルク神の後ろから、「オホホーオホホー」という高い声が聞こえてきた。
オホホの登場だ!
富の象徴とも言われるオホホ神は、なぜかブーツを履いている。
たくさんお金を持っていて、「ほれほれ、こんなに持ってるどー」という仕草で、
お札の束をバタバタして見せる。
オホホホホーオホホホホーと言いながら、お尻をプリプリ振ったり、手招きしたり、
とにかく奇妙で滑稽な神様だ。

西表島の神さまたち

西表島の神さまたち



オホホは終盤で、札束をバァーッと豪快にバラまく。
島のこどもたちが、そのお金(ニセモノだよ)を拾い、一目散に走って逃げる。
オホホに追いかけられ、必死に逃げるこどもの姿がおかしい。
とうとう神女が、まだ名残惜しそうなオホホを連行。
爆笑の渦の中、ふりかえり、ふりかえりしながら、オホホは御嶽の建物の中へ消えて行った。
祭のラストは、獅子舞。獅子に頭を噛まれたいこどもたちが、前庭の中で待っている。
ところが、獅子の様子がおかしい。酒を飲み過ぎて、まともに舞えなくなっていた。
司会の男性が「今年はこれで終了です!」と、噛まれないまま閉幕。
500年もの伝統ある節祭、神様たちも大らかで、自由だった。

港までの帰りの路線バスが、まさか2時間も後になるとは思っていなかったけど、
オホホと、“アンガマ”の余韻で、待ち時間は苦にならなかった。
祭の会場を出てから、時間つぶしでウロウロ歩き回っていた。
干立と祖納の間くらいにある橋の上で、ゆっくりと歩いて来るおじいさんに、
「オホホは見られたの?」と声をかけられ、いま見てきた帰りですと答えると、
「うんうん、それはよかった、オホ」と、おじいさん。
笑った目は細く流れるように下がり、前歯が2、3本しか見えなかった。
しわくちゃの笑顔は、私たちを幸せな気持ちにさせてくれた。
とってもやさしいおじいさんだとわかる。
「ねぇ、いまのおじいさん、オホって言ったよね?!」
妹は興奮気味に言った。
「志乃は、あのおじいさん神様だと思った!」
そういえば、あの笑顔は見覚えがある。
石垣島の来訪神、アンガマの顔にそっくりだった。



Posted by アヤ小 at 17:53